CHAPTER 01
第1章 邂逅
TAKAとURAは幼馴染だった。
家も近かった。
学校も同じだった。
特別仲が良かったわけでもない。
かといって離れることもなかった。
気がつけばいつも近くにいた。
中学生になる頃には、
二人とも音楽に興味を持っていた。
誰かに勧められたわけじゃない。
なんとなく。
ただなんとなく。
楽器屋へ行く。
CDショップへ行く。
友達の家で音楽を聴く。
そんなことを繰り返していた。
気がつけば、
TAKAはベースを持っていた。
URAはギターを持っていた。
上手くなりたいとか、
プロになりたいとか、
そんなことは考えていなかった。
ただ、音を出すのが面白かった。
高校生になったある日。
放課後だったか。
休日だったか。
二人とも覚えていない。
URAが言った。
「スタジオ入って音出してみない?」
深い意味はなかった。
バンドを組もうという話でもなかった。
ライブをやろうという話でもなかった。
ただ、ギターとベースをもっていたから。
TAKAは答えた。
「いいよ」
それだけだった。
数日後。
二人は初めて音楽スタジオに入る。
狭い部屋。
アンプ。
ドラムセット。
壁の吸音材。
独特の匂い。
ギターを繋ぐ。
ベースを繋ぐ。
電源を入れる。
ジャッーーーー
ノイズが鳴る。
URAが適当にコードを鳴らす。
TAKAが適当にベースを重ねる。
曲なんていらない。
コピー曲ですらない。
ただ音を出しているだけ。
でも、それが妙に楽しかった。
「なんかいいな」
どちらが言ったのか、
もう覚えていない。
ただ、BACK LINEの物語は、
そのスタジオで鳴った最初のノイズから始まった。
CHAPTER 02
第2章 覚醒
TAKAとURAは相変わらずスタジオに通っていた。
毎週というほどではない。
気が向いた時に集まり、
気が向いた時に音を出す。
そんな関係だった。
二人で音を出すのは楽しかった。
だが、しばらくすると物足りなさも感じ始めていた。
「歌が欲しいな」
ある日、TAKAが言った。
確かにそうだった。
ギターとベースだけでは何か物足りない。
中心になる何かが欲しかった。
TAKAが歌ってみたこともあった。
しかしどうもしっくりこない。
悪くはない。
だが違う。
何かが足りない。
そんなある日。
昼休みだったか、
放課後だったか。
URAが妙に楽しそうな顔で話しかけてきた。
「隣のクラスにSANってやついるじゃん」
「知らない」
とTAKA。
「なんかギター弾き語りとかやってるらしいよ」
「へぇ」
「今度誘ってみる?」
それはいつものURAらしい軽さだった。
深い考えなんてない。
ただ面白そうだから。
数日後。
SANは本当にスタジオに現れた。
第一印象は普通だった。
特別目立つわけでもない。
騒がしいわけでもない。
むしろ静かな方だった。
「よろしく」
それだけ言ってギターケースを置く。
とりあえず音を出してみよう。
そんな空気になった。
URAが言う。
「何やる?」
誰も答えない。
「なんでもいいけど」
また沈黙。
するとURAが思いついたように言った。
「Slayerとか分かる?」
普通なら断られてもおかしくない。
高校生の雑談みたいなものだった。
ところがSANは即答した。
「分かるよ」
一瞬だけ空気が止まる。
「マジで?」
「うん」
「じゃあ歌ってみてよ」
「いいよ」
あまりにも自然だった。
アンプのスイッチが入る。
ギターが鳴る。
ベースが続く。
曲は、Angel of Death
イントロが始まる。
そしてSANが歌い始めた。
その瞬間だった。
何かが変わった。
部屋の空気。
音の重さ。
視線の向き。
今までただ鳴っていた音が、
突然ひとつの塊になった。
URAも気づいていた。
たぶん。
SANは夢中で歌っていた。
TAKAは演奏しながら思った。
「なんだこれ」
今までと違う。
ただの音遊びじゃない。
初めて、音が前へ進み始めた気がした。
曲が終わる。
誰もすぐには喋らなかった。
静寂。
その沈黙の中で、
TAKAはひとつのことを考えていた。
“これ、バンドにしよう”
後から振り返れば、
BACK LINEが生まれたのはその日だった。
名前もまだない。
曲もない。
未来もない。
でも確かに、
あのスタジオで
ひとつのバンドが産声を上げていた。
CHAPTER 03
第3章 結成
SANとのセッションから数日。
TAKAの頭の中には、あの日の光景が残り続けていた。
Slayer。
Angel of Death。
そしてSANの声。
あの日以来、TAKAとURAの会話は少し変わった。
「バンドにする?」
「するか」
決まるのは一瞬だった。
もともと二人とも深く考えるタイプではない。
やりたいと思った。
だからやる。
それだけだった。
問題はひとつ。
ドラムがいない。
ギター。
ベース。
ボーカル。
あと一人。
だがTAKAにもURAにもドラマーの知り合いなんていなかった。
「どうする?」
「知らん」
「募集とか?」
「めんどくさそう」
そんな会話をしていたある日。
それまで黙って聞いていたSANが言った。
「いるよ」
二人が同時にSANを見る。
「え?」
「ドラマー」
「マジで?」
「AKIってやつ」
SANは平然としている。
「同い年なんだけど」
「いろんなバンドで叩いてる」
「サポートとか結構やってるよ」
TAKAとURAは顔を見合わせた。
「なんで先に言わないんだよ」
「聞かれなかったから」
SANらしい返事だった。
とりあえず会うことになった。
数日後。
いつものスタジオ。
先に来ていたTAKAとURAは少し緊張していた。
どんな奴なんだろう。
上手いのだろうか。
ちゃんと話せる人だろうか。
そんなことを考えていると、
スタジオの扉が開いた。
「おはよー!」
やたら元気な声だった。
入ってきた男を見て、
TAKAは一瞬言葉を失う。
両腕にタトゥー。
初対面なのに距離感が近い。
妙に笑顔。
妙に人懐っこい。
「AKIです!」
「よろしく!」
「SANから話聞いてるよ!」
まだ何も始まっていないのに、
なぜか場の空気を全部持っていく。
URAは後にこう語っている。
「最初、怖い人かと思った」
だが数分後には普通に笑っていた。
AKIにはそういう力があった。
準備が終わる。
ドラムに座るAKI。
ギターを構えるURA。
ベースを持つTAKA。
そしてSANはギターを肩に掛け、
マイクの前に立つ。
誰かが言う。
「何やる?」
そしてまた同じ答えになる。
「Angel of Deathでいいんじゃね?」
全員が頷く。
さらに後半も、
ギターが暴れる。
ベースが唸る。
SANの叫び声がスタジオを切り裂く。
そしてAKIのドラムが、
すべてを前に押し出していく。
気づけば全員が夢中だった。
曲が終わる。
スタジオに静寂が戻る。
誰もすぐには喋らなかった。
汗だけが落ちる。
そして。
だれからともなく笑った。
「やばくない?」
「やばいな」
「めちゃくちゃ楽しいな」
「最高じゃん」
その瞬間。
TAKAも。
URAも。
SANも。
AKIも。
全員が同じことを考えていた。
“これはすごいバンドになる”
未来なんてまだ分からない。
ライブもしていない。
曲もない。
名前すらない。
それでも、
四人には確信だけがあった。
あの日。
狭いスタジオの中で。
BACK LINEの四人は、
初めて同じ夢を見た。
CHAPTER 04
第4章 地風
AKIが加入してからというもの、
4人は急速にまとまり始めた。
放課後。
休日。
空いている時間。
とにかくスタジオに入った。
誰かが曲を持ってくるわけでもない。
明確な目標もない。
ただ、音を出すのが楽しかった。
そして自然な流れで、
ライブの話が出た。
「やってみる?」
「いいんじゃね?」
その一言で決まった。
記念すべきBACK LINE初ライブ。
演奏するのはオリジナルではない。
TAKAが昔から大好きだったバンド。
THE MAD CAPSULE MARKETS。
4人全員が納得した。
「まずはこれだろ」
そう思った。
ライブ当日。
会場は決して大きくなかった。
観客は30人ほど。
友人。
知人。
たまたま来ていた客。
そんな小さなライブハウスだった。
ステージ袖。
TAKAは妙に落ち着いていた。
URAはいつも通りだった。
SANは静かだった。
AKIだけが妙に楽しそうだった。
「大丈夫大丈夫」
何が大丈夫なのか分からない。
だがその言葉で少し緊張が和らいだ。
そして。
照明が落ちる。
BACK LINE初ライブが始まった。
爆音。
重低音。
叫び声。
THE MAD CAPSULE MARKETSの楽曲がライブハウスに響く。
観客は最初、
少し戸惑っていた。
だが数曲もすると空気が変わり始める。
前へ出てくる者。
拳を上げる者。
確実に反応が返ってくる。
そして事件は突然起きた。
URAのギターが鳴らなくなった。
「え?」
一瞬。
音が消える。
本人が一番焦っていた。
スタッフも慌てる。
観客もざわつく。
だが。
AKIは叩き続けた。
TAKAも弾き続けた。
SANも歌い続けた。
URAも必死で原因を探す。
数十秒。
あるいは数分だったかもしれない。
ようやく音が戻る。
観客から歓声が上がる。
そしてBACK LINEはそのまま最後まで走り切った。
ライブ終了。
楽屋。
4人とも汗だくだった。
疲れていた。
でも誰も暗い顔をしていなかった。
むしろ全員笑っていた。
「やべぇ、楽しかったな」
「URA全然ギター鳴ってなかったじゃん」
「うるせえよ」
笑い声が響く。
その時だった。
誰かが言った。
「オリジナルやろうぜ」
全員が頷いた。
コピーだけじゃ足りなかった。
自分たちの音が欲しかった。
自分たちの言葉が欲しかった。
そして数週間後。
BACK LINE初のオリジナルソングが生まれる。
タイトルは『地風(チカゼ)』
『地風』をSunoで聴く ↗
荒削りだった。
今聴けば未熟な部分も多い。
だがそこには、
間違いなくBACK LINEの原点があった。
まだ何者でもない4人が、
初めて世界に向かって放った音。
それが『地風』だった。
後にTAKAは語っている。
「BACK LINEが始まったのは初ライブの日かもしれない。」
バンドは結成された日ではなく、
誰かに音が届いた日から始まる。
BACK LINEの物語は、
ここから本格的に動き始める。